こんにちは。いぐさ部部員の木村です。今回のいぐさ部ブログは広島県福山市沼隈(ぬまくま)の、い草の田んぼ風景からお届けします。この地域で作られているい草は「せとなみ」と呼ばる品種で、ようやく緑に色づいてきました。まだ丈は短いですが、5月から6月にかけてのこの時期にぐんぐん育っていきます。夏の刈り取りに向けて、このまま元気に去年よりも、良い、い草になるよう願っています。
いぐさ部初のワークショップ
さて、今回は4月6日にいぐさ部が初めて開催した、い草を使ったワークショップについてお伝えします。テーマは、「結って、編んで、作る。〜い草ミサンガ作り〜」。
突然ですが、みなさんは、い草と聞いたとき、何を思い浮かべますか?畳でしょうか。では、畳になる前に、い草はどんなかたちをしているのか、ご存知でしょうか。
「まずは、い草が、どんな植物なのか。」
「い草を編むって、どんな感じなのか。」
「なんで備後で、い草なのか。」
い草に触ってもらうことで直に素材を感じてもらえるよう、誰でもトライできるミサンガ作りを企画しました。今回のワークショップは、い草を編みながら、私たちの暮らしの中にあるい草のこと、い草にまつわる備後の文化のことなど、い草の持つ価値を伝えたいという想いをこめて取り組みました。
今回は、尾道市内や、御隣の内海町、そして遠方では東京から、い草に初めて触るという方たちが集まりました。また、いぐさ部の取り組みに関心を持ってくださった畳を作られているプロの方もおられ、初心者、玄人、尾道自由大学スタッフと、様々な顔ぶれになりました。
い草でミサンガを編む
作業内容は、いたってシンプルです。7本のい草を規則的に編みこんで編んでミサンガにしていきます。大ぶりのクリップで、ほそい7本のい草を挟み、それらを規則的に編みこんでいきます。最初はなかなか形にならず、参加者の方は苦戦していました。いぐさ部部員による、糸をつかった作業のデモを真剣に見つめながら、普段は手芸のような手作業をあまりしないという参加者も、真剣に編み進めていました。
素材としてのい草の特徴
一般的に、い草は、刈り取りのあと、染めて、また乾燥させてから、ようやく資材として製造工程に進みます。乾燥したい草を、最初から、そのまま簡単に曲げたり、折り込んだりはできません。加工の際は、乾燥を防ぐため、い草に霧吹きで水分を与え、草をやわらかくして使います。実際に、民藝品として有名な、円座なども、い草をまた水で一度洗って干し、霧吹きで水分を与えながら編みこんでいきます。高度な技術が必要な円座も、シンプルなミサンガも、素材に合わせたケアをして、ものづくりをしていきます。
参加者のみなさん・講師ともに一体となって、編み方を間違えたり治したりしながら、霧吹きをシェアしながら、もくもくと編み続けます。不思議と、何回も同じ工程でやっていくと、コツを覚えられます。1度覚えると、指先が手に動くのです。
最後にはみんなの手首に綺麗なミサンガが。それぞれ、とてもいいものができあがりました。記念写真を見ると、いい笑顔!
繊細な感覚を要する、い草を編む技術
簡単に見えて、やってみると難しい、しかし覚えるととても楽しい。この、簡単に見えそうで難しい、編むことについて、じっくりと向き合う時間が、い草に触れる醍醐味です。
編む技術は、日本全国の民藝文化に於いても欠かせないものです。今の時代であれば、編むことに適している素材は、地方に行けばいくらでもあり、製品の用途に応じて揃えることができます。福山市・尾道市一帯を示す、備後という土地で、昔から栽培されてきたい草は、この地の生活と、月日の積み重ねの中で、技術が発展し、編んだり、織ったりされて、その民藝品や日用品の価値を高めてきました。中でも、現在作り手が少なくなっている、円座や、細かい編み細工を施す虚無僧傘(こむそうがさ)など、この地に伝わる技術は、繊細な感覚を要する作業です。
このこのような技術のことを、なにも編んだことがない人が、その技術の価値を理解することが難しいのは、当然です。だから部員は、まずはい草をさわってもらいたい。そして編んでもらいたかったのです。ちょっとよくばりでしょうか。
いぐさ部の活動を通して、い草の魅力を伝えていきたい
それぞれ作ったミサンガをみなさん嬉しそうに見せ合いながら、講義が終わっても、い草についての話や、いまのい草にまつわる伝統文化の話や、この尾道の場所についてのお話は、ゆっくりと続きました。たとえば、今の新尾道駅には、昔は広々としたい草の田んぼがあったことや、尾道の街中にも、たくさん畳屋さんがあったこと。地元でい草に真剣に向き合う方だからこその、熱い想いで語られるそれらの話は、それぞれ別の土地から来たみなさんにとって、もちろんいぐさ部にとっても、刺激的で、新鮮です。
広島県福山市一帯の、い草を栽培する農家さんも、数えるほどしか残っていない今、この地に息づく繊細な技と、高品質のい草からできる備後畳を生産する方は今ではごくわずか。当然、私たちも、い草の素材の姿や、い草で出来たモノを見ることも少なくなってきました。その中で、い草を使ったシンプルなものづくりをしながら、こうしてみなさんにい草の魅力をお届けするのが、いぐさ部なのです。次回もどうぞお楽しみに。
(text:いぐさ部 部員 木村桃子)