講義名:島根美食倶楽部とめぐる、石見の旅 手しごと探訪編 | レポート公開日:2018年10月10日
『島根美食倶楽部とめぐる、石見の旅 手しごと探求編』の受講生の小川です。今回この講義に参加するきっかけとなったのは、今年の夏に就職した会社の社長からの勧めでした。私が面接の中でしたモノづくりをしている人たちに興味があるという話を覚えてくれており、まだ採用が決まって居ない時に「こういうのがあるけど、小川さんきっと好きだよ。行ってみれば?」と連絡をくれました。モノづくり体験もでき、作り手の工房にもお邪魔できる事とそのページに記載されていた飯野先生が盛り付けをされたテーブルの面白さに興味を持ち、ぜひ参加したいと思いました。
そして当日。広島空港で集合をして車での移動中、飯野先生の今までの作品集を、エピソードを交えながら見せて頂きました。私のイメージでは、こういう素材にはこういうお皿が合います。この色にはこの色を。と何か決まったものがあるのかと考えていましたが、飯野先生の盛り付けにはそういったルールは無く、その土地・場所・季節・時間にあるものの中から
何を表現出来るか考え、作られたものでした。お皿が無ければ新聞紙を使っていたり、料理だけでなくお花をお皿に盛り付けていたり、想像を越える盛り付けがされていました。しかし、その盛り付けには全て、周りの情景を感じられるものがギュッと詰め込まれていました。飯野先生の感性に刺激され、これからの旅がより楽しみなものになりました。
1日目
そして、辿り着いたのが山奥にポンと現れた「森脇製陶所」。少し強面な森脇さんはキュレーターの三浦さんを見るとパッと穏やかな表情になり、私たちに丁寧に頭を下げ出迎えて下さいました。ギャラリーには繊細でありながら力強さのある器たちが並べられていました。お話の中で記憶に残ったのが「狙ったらスベるんです。」というワード。カッコつけず、ありのままの今の自分でいること・それを認めてあげること・良いと言われたことを素直に受け入れること。そんな姿が美しく、私も今の自分を認めその中で出来ること、したいことをコツコツと積み重ねていこうと思いました。器の話だけでなく、このような話が聞けるのも今回のこのメンバーで来たからこそだったのだろうと感じています。
そして、ギャラリーに入った時から気になっていた器を購入しました。丁寧に包装して下さり、丁寧に器の説明をして下さったモノを受け取り、丁寧にお家で使おうと思いました。
ランチの後、向かったのが「やさか村ワタブンアートファブリック」。こちらではランチョンマットを作るワークショップを用意してくれていました。レクチャーを受け、各自選んだ機織り機でスタート。作業はすごくシンプルで「足踏んで、糸を入れて、踏み替えて、はい、トントン。糸入れて、踏み替えて、はい、トントン。」と言葉を繰り返しながら、すぐに取り組むことができました。みんなのトントンという糸を寄せる音の心地よさと褒め上手の先生たちのおかげで楽しい時間となりました。短い時間で作品は出来上がるものの、出来上がったランチョンマットを見ると先生が作り始めてくれたスタートの部分・私が作り始めた部分・慣れてきた部分と織り具合の違いが面白く何度も広げて見てしまう愛おしい1枚となりました。ここで河野さんがお話していて印象的だったのが「可愛がられる子を育てたい」という話。『どこかのタイミングで田舎から離れた時に知らない土地の人に可愛がられる子でいて欲しい。その為にはちゃんとありがとうが言える子であることが大事。ここでは蚕さんの命をいただいて、紡いで糸にし、このような作業をして生地を作る事を伝えている。何でもたくさんの人の手に掛かってものが出来ている事を忘れないで欲しい。その気持ちがあるとありがとうが言える子になる。』と。ただモノ作り体験をして終わりという事ではなく、作り手の想いを聞くことができる時間もあるのがこの講義の醍醐味だろうと思います。
盛り付けデザインの実践の世界へ
その後、温泉で移動の疲れをパッと吹き飛ばし、メインイベントである盛り付けデザイン学・実践編を行う会場「さきや」へ向かいました。会場に着くと、地元のお母様方や美食倶楽部の方々が用意してくださった旬の島根料理がキッチンにたくさん並べられていました。まずは、「何でも使ってください」とキュレーターの三浦さんが色々な日本の窯元の器や海外で購入した器などを出してくださいました。個性豊かな器たちは、テーブルに並べただけで美しくワクワクするものとなりました。
どのメニューにどのお皿が合うかを受講生で相談し、それぞれ担当を決め、テーブルで向かい合って盛り付けをスタートさせました。私が最初に担当したのは、お煮しめ。上の写真の右側スリップウェアのお皿に盛り付けることがテーマとして決まっていました。これまでの自宅での盛り付けでは、作った量や食べたい量を全て盛り付けることしかしていなかったので、今回もたくさんのお煮しめをお皿いっぱいに盛り付けすることから始めました。その時、飯野先生から下の柄が見えても面白いかもよとアドバイスをいただきました。
少し量を減らし、隙間も持たせつつ盛り付けたものは動きが出たように感じました。また、食材だけでなく葉を添えるだけでも彩りが良くなりました。受講生の皆さんの盛り付けも私の発想しないものばかりで、ただお皿に盛るだけでなく、一緒にテーブルを囲む人たちを楽しませたいという気持ちがそこにはあるように感じました。そして、盛り付けが終わった皿をテーブルに置いていたのですが、そこから飯野先生のテーブルにかける魔法を見物しに美食倶楽部の皆さん、受講生も自然と集まり始めました。お皿の配置をサッと変更していかれました。たったそれだけでテーブルの上がスッキリとしたことが不思議でした。
そこから、私たちがその日作成したランチョンマットをお皿の下の所々に配置され、テーブルクロスよりも動きのある楽しいテーブルになりました。そして、栗の木からひとつ栗の実を切り、すこーしさみしいのでと猪肉煮込みの中心にスッと刺された瞬間、会場からは「わー!」と歓声が上がりました。たった一つの事だけれども、季節を感じられる盛り付けになり、すごく勉強になりました。
そして、宴のスタートです!素敵な出逢いにカンパーーーイ!!!美味しいごはんと美味しいお酒で笑い声の絶えない時間はあっという間に過ぎて行きました。
2日目
最初の行程は石見焼の窯元「石州 宮内窯」での作陶体験。はじめに、宮内さんがお茶碗・マグカップ・平皿の作り方をそれぞれ簡単そうに素早く優しい手つきで説明しながら作ってくださいましたが、実際、粘土を手に取りやってみると想像している形にしていくことが難しく、職人技のすごさを実感しました。しかし、うまくは表現できないものの粘土を触り形にしていく時間は懐かしく、有意義な時間となりました。そして、離れた場所に住んでいる受講生の皆さんの手元に届いたものたちを数ヶ月後、共有しあえる日が楽しみです。宮内窯さんの工房には、手仕事ならではの温かみのある器が数多く並んでいて、種類にもそのリーズナブルさにも驚きでした。
ランチの後は「西田和紙工房」での和紙つくりのワークショップです。工房の前で出迎えてくださったのは優しそうな西田さん。工房の外にいたヤギを指さし、「うちの草刈り隊長です。」と笑顔でおっしゃっていました。温かい。
石州和紙・石州半紙の原料であるミツマタを触らして下さり、和紙が出来るまでの工程を案内してくださいました。そして、和紙つくりの実践です。和紙の原料となるトロッとした液体がたくさん入ったタンクに簀桁を入れて前後左右に優しく揺らします。すると、ぽちょんぽちょんと水の落ちる心地良い音がして、すでに和紙のようなものが現れました。そして同じ動作をもう一度行い、少し分厚くなった和紙にそれぞれ好みの植物や飾りを乗せて、工房の方が薄く原料をかけて下さり、作業は終了です。そこから、掃除機のようなもので水分を吸い取り、簀桁から外し、乾燥室に持って行かれ、あっという間に和紙が完成し袋に入れて渡してくださいました。
出来上がったものがすぐ手元に届くのは嬉しく、ほかの受講生の作品も見せていただくことができるのも良かったです。今回は紙すきの体験だけでしたが、それより和紙つくりのその他の工程でもお手伝いできることがあればしたいと思いました。
今回の講義はこれで最後となりました。二日間は本当にあっという間でしたが、最初から最後まで盛りだくさんの充実したものとなりました。特に印象に残っているのは、やはり飯野先生の盛り付けをされている姿と、その姿を見ていた皆さんの目の輝きです。普段、さきやで使っている場所・食器が並んでいる様子をあんなにもキラキラした表情で見てしまうのは盛り付けの力だと感じました。もちろん美味しい料理だけれど、それがいつもよりも意識を変えて器の配置や盛り付けをするだけで、食事の時間に楽しさや嬉しさの増すことを実感しました。私も、萩(山口県萩市)のお店での盛り付けやテーブルコーディネートにこの土地らしさ・このお店らしさ・季節を取り入れ、お客様により良い時間を過ごしてもらいたいです。
また、一緒に受講した皆さんの個性も豊かで、普段関わり合えないお仕事の方々とお話しする機会を持てるのもこの尾道自由大学での講義に参加したからこそと思います。
飯野教授、キュレーターの三浦さん、小川さん、受講生の皆さんに感謝申し上げます。
(taxt by.大庭邦太・小川優子)